REPORT
先輩のSTARTING LINE -第10回- 悩みを強みにして始まったチャレンジする人生
和田 真由子さん(株式会社エスティーム代表/overEディレクター)
『先輩のSTARTING LINE』は、自分らしい生き方・働き方の実践者たちが、どのようにはじめの一歩を踏み出し、トライ&エラーを重ね、今に至るのかに迫った連載シリーズです。
段階を踏んで、前進してきた“先輩方”のエッセンスが凝縮された内容となっていますので、「いつかやってみたい」を「いまやっている」に変えていきたい、「やりたいことが見つからない、まとまらない」、「やりたいことを本当にやって良いのか?」、そんな疑問に対するヒントを得てもらえたらと思います。
第10回は、株式会社エスティーム代表/overEディレクターの、和田 真由子さんの記事となります。ぜひご覧ください。
※本連載シリーズは、TOKYO STARTUP GATEWAYビジネススクール連続講座 「スタトラ」 の中で行われたコンテンツ「先輩訪問」のレポート記事となります。
コミュニティを変えることで、“生きづらさ”を解決する手がかりを掴めた
―自己紹介をお願いします。
事前に頂いた質問を振り返ってみますと、参加者の方々の関心として“生きづらさ”が共通している印象を受けたので、その部分を掘り下げられればと思います。 私は、発達障害のADHD(注意欠陥・多動性障害)で、小さな頃から“ドジ”というのがキーワードでした。ぼーっとすることが多い 、忘れ物が無茶苦茶多い、1つの物事に集中できないこと等が多くて、「頭が足りない子なんじゃないか」と母も友達も思ったそうです。自分に対しても、「なんでこんなに私できないんだろう」と思う子供でしたし、周りから見ても発達の遅い子だったと思います。なので元々の自分として、「私はできない、自信がない」というのがすごく強かったですし、人前に出るのもかなり苦手でした。私は山形県の人口1000人ぐらいの地域の、保育園の同級生がそのまま中学校まで同級生になるような場所で育ったので、ある程度相互の行動パターンが分かるような人たちに囲まれて生きていました。それが大学生になったら全く知らない土地、知らない人たちに囲まれて情報過多になっちゃったんですよ。あまりにも自分が今まで知っていた人達と違う行動をとる子達に、結構いっぱいいっぱいになっていたかなと思います。5、60人ぐらいしかいないクラス制の小さな学部で同性のいじめに遭ったことから違和感や生きづらさを強く感じるようになり、サークルや都内の学生団体に色々参加してみても状況は打破できず、どんどん暗くなっていきました。自分の状態をADHDと呼ぶことに気づいたのはその頃です。自分がADHDであることを認識した後でも、地元の議員を歴任した祖父の背中を見てから芽生えた、「政治家になりたい」という幼い頃からの夢を叶えるためにも、色々試してみたのですが、どれもなかなか続けられませんでした。
そんな時にADHDが起業家に向いているとか、有名な社長が自分をADHDっぽいと書いていらっしゃる事例に少し興味を持ったんですよね。その時にアイディアが思い浮かぶとか、突発的な行動力があるという自分の特性を活かす手段として、起業家があるのでは?と考えたのが、最初起業に興味を持ったきっかけです。 本屋に赴いてビジネス向けの自己啓発本を買って読み漁る、という模索の日々を過ごしていました。
そうした毎日に一つの転機が訪れます。バイト先の人から、とあるマンガを薦められたんです。ある競技にフォーカスした題材だったのですが、このマンガに出会ってからは、気づいたら1ヶ月後には競技場に行き、3ヶ月後には全国を飛び回るほどに関心を持つようになりました。足を運んだその場所では、大学から派生したコミュニティでは絶対会えない人との繋がりを形成することができました。高校を卒業してから就職して働いている子、20代~40代の職員のお姉さん、裕福な生活をしながらも何か別の刺激を求めに来ているおじいさん達と出会った過程が、結果的に自分の価値観を広げてくれたと思います。今いるコミュニティに固執しないことが、“生きづらさ”の解決策のひとつかもしれないですね。結果的に就職をして約2年半社会人をして、そこから起業準備をして現在に至りますね。
普通のOLがマラソンを機に起業を決意
私は社会人としては編集兼ライターとして2年半ぐらい働いていました。私が起業しようと思い始めたきっかけは、社会人2年目終わりに会社の人に便乗して応募した結果当選した、東京マラソンを走った時でした。走っている途中に、「こういうチャレンジする人生気持ちいいかもしれない」と思ったんですよね。チャレンジをして苦しいことをやっている最中で、足を止めようかなと思っている瞬間に踏み出す達成感、満足感といった自己肯定感の高まりにすごく価値を感じて。大学時代から自分に自信を持てないことで色々諦めてきたんですけど、チャレンジする過程でしか自信は蓄積されないんだな、とも思ったりしたんですよね。ゴー ルを決めてその過程を埋めていくタイプなので、マラソンを走る最中で決意をして、起業することをまず決めました。
スタートアップのスの字も知らなかった私は、まず創業ベンチャー支援センターという行政が主催していた創業者向けのセミナーに参加しました。そこで私は「自分の悩みは他の人にとっての悩みかもしれないよ。それを解決することがビジネスになるかもしれないよ」という言葉を受けたんです。「じゃあ自分にとっての悩みって何だろう?」と考えてみることにしました。考えた結果出てきたのは、私にとっての大きな問題、「自分に自信が無いこと」だったんですね。それで「自信が無いのはどうしてだろう?」といった棚卸しをたくさんしていき、大学時代に学校に行けなくなった経験、周りから拒絶された恐怖を振り返ってみたんですね。大学生時代の私は、自分に似合う服が全然無い時に「私って変なんだ」 みたいな感覚に陥ってしまい、社会からの疎外感をものすごく感じていたことが大きかったと気づいたんですね。そこで今やっている事業の原型となる案を地元の友達何人かに話をしてみたら、 「実は私もすごく悩んでいた」という意見を聞いたんです。どうしてだろう?と思い早速ネットで調べてみたら、今は4人に1人がEカップ以上で、実際に声を出せないだけで多くの人たちが悩んでいることを知り、他にやってる人がいるかなと調べてみてもやっていなかった。だったら私ちゃんと起業したいという思いもあるし、みんなの気持ちも分かるしやってみようかなと思いました。
とはいえ私は普通のOLですので、「どうすれば会社を作れるの?」「アパレルってどういうこと?」「合同会社と株式会社って何?」と分からないことだらけでした。なのでとりあえず、東京都や埼玉県の創業支援系のセンターに通ったりして知見を深めていきました。会社を実際に作るための書類の書き方も学べるものじゃないし、その都度壁にぶつかりながら調べました。漠然とした作りたい服のイメージも、工場で何度も話をしてサンプルを作る中で形にしていきました。やらないと分からなかったことだらけの中で、1年半ぐらい準備をして会社を作りましたね。
イベントと危機感がトリガーになることも多い
<以下参加者質疑応答>
Q:ネクストステップをどう取れば良いのか悩んでいます。
多分きっかけとなるイベントって結構人生には必要なんだなと 思っていて。私にとっては東京マラソンですね。起業家のエピソード等を見ていると着々と準備をして始められる方もいれば、失業、大学院試験落選、婚約、妊娠等を契機に事業を起こした方も 構いるんですよね。バイオリズムが変動しているタイミングで始めた方が、カッと進める場合もあると思います。ただイベントを待つ現状に問題意識を持つのなら、ビジネスプランコンテストに応募してみたり、関心のあるテーマのピッチイベントなどに出てみるのも手ではないでしょうか。自分の意見を主張しフィードバックをもらう経験も、参加者や未知のビジネスとの出会いも結構インパクトがありますよ。
Q:夢を持つことが心の支えになるのか、行動をしていく上でのハ ードルになるのかを伺いたいです。
私は中学生の時から、今の自分ができないことはもしかしたら環境や何かを変えれば解決する、という経験を早い段階で持っていて、大器晩成という言葉だけを信じて生きてきたので、どちらかと言うと心の支えでした。目標があることは、私にとってはプラスになっています。そこに向けて行動が伴わないことで心が苦しみを感じるタイプだと良いと思うんですけど、夢を抱き興奮した時点で満足してしまい、実際に行動が伴わない場合も多いんですね。やはり夢を見ている時間がアドレナリンといった快楽物質も出て、一番楽しいんですよ。なので私は、危機感を持っている時の方が人は行動するなと、今でも事業を進める中で思っています。実際にその先には辛いこともあるけど、アクションが生まれるのはやはりそういう場面ですよね。社会人でも大学生でも、危機感を持たなくても良い時はなかなか行動に移せないと思うので 、何かしらのそうしたタイミングがあれば行動を起こしやすいのではないでしょうか?
進めていく中で自分がやる理由もサービス内容も変動していく
Q:一番始めに商品を作った直後、色んな人からのリアクションがあったと思うんですけど、フィードバックを受けてからはご自身の事業にどのような変化が生じましたか?
それは私すごい大事だと思うんですよ。先になんでも良いからプロトタイプを作ってからじゃないとダメだなと思っていて。お金を払ってサービスを受容してくれたお客さんから頂いた真剣なフィードバックを元に要望に答えて、どんどんサービスを改善していくスピード感の方が、アーリーアダプターを見つけてインタビューをするよりも良いのかなと思うんです。なぜかというと、 今これだけ満ち足りた時代の中でニーズとして顕在化していると か、頭の中で具体的になってる場合ってものすごく少なくて。そこから実際にものになった時に、自分自身も気づいていなかったような課題や不満に気づき出すのかなとは思いますね。カリキュラム等でインタビューをしていてもお金を払う層と、自分がアーリーアダプターと思っている層のずれが生じると結構困るなと思っていて。自分自身について語る時、人は少し遠慮も入りますし隠したいところは隠すので。やはりお金を払う層がサービスを使っている様子や、そこからの実際のフィードバックを分析した方が、ユーザー満足度の高いサービスになる気がしています。だから本当に何か形にしてみる、動かしてみるというのはすごく重要だと思いますね。
Q:取り組んでいる事業が、自分が本当にやりたいことなのか、やる必要があるのかを明確に区別できておらず、モヤモヤしていることに問題意識を感じています。
私も最近までそうでした。起業して自分の想いを表現する機会が増えて、お客様から必要とされていることを実感できて、ようやく腑に落ちてきた感じですね。自分がやりたいことと必要とされていることは、むしろ違うことも多いですよ。どちらにせよ、行動しながら分かっていくことなので、心配しなくても良いと思います。
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[ PROFILE ]
和田 真由子さん(株式会社エスティーム代表/overEディレクター)
1991年生まれ。山形県出身。政治家を目指し筑波大学に進学するも、よりダイレクトに社会に想いを届ける生き方として起業に関心を持つ。3年間、編集者兼ライターとして出版社に従事した後、株式会社エスティームを設立。同時に胸が大きな女性に光を当てたアパレルブランド「overE」をリリースするとメディア ・SNSで話題に。東京都主催のビジネスコンテストTOKYO STARTUP GATEWAY2016セミファイナリスト。
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