REPORT
東京から大分・別府に移住。TOKYO STARTUP GATEWAY2期生の菅野静さんが別府で仕掛ける「湯治×起業」の創業秘話。
菅野 静さん(ONSEN WAKIPEDIA ™ 創設者 / TSG 2期メンバー)
本記事は、2019年6月28日に大分は別府で開催されたTOKYO STARTUP GATEWAY 2019(TSG2019)のプレイベントにご登壇いただいた、TSG2期生の菅野静さんの創業秘話の生ログです。
・なぜ別府へ移住?迷ったことは?東京との違いはなにかある?
・別府での創業準備、イイコト大変なコトは?
・東京やTSGで得られた経験は地域でどう活きる?それともぶっちゃけあまり活きない?
・創業期に待っている「しくじり話(ここだけの話)」、教えて!
などなど、赤裸々なお話を伺いました。
温泉との出会い、鉄輪で受けた衝撃から移住、起業へ。
―まずは自己紹介からよろしくおねがいします。
菅野 静と申します。外国人向け全編英語の湯治サイト「ONSEN WAKIPEDIA」* を運営しています。「ONSEN WAKIPEDIA」は今、39カ国6900人がフォローしてくれており、1年かけて育てました。これを1万人まで増やすというのを目標に、この1年頑張っています。また、来年の2月から、 鉄輪湯治シェアハウス「湯治ぐらし」を開業しようと、現在ガツガツ進めているところです。「湯治ぐらし」* は、「カンコー(観光)ではない、カンケー(関係)をつくるのだ!」というキーワードで、私の大好きな鉄輪に一度来たお客様にまた戻ってきて欲しいという思いから、“湯治場”ならぬ“湯磁場”を目指し、面白いもの・こと・ひとが集まってくる磁石になるべく、また湯治というライフスタイルを世の中に改めて発信していくプロジェクト型のシェアハウスをつくろうと、今準備しています。ここでは、暮らしの中に湯治を組み込むとどうなるのか、ということを実験していきたいと考えています。また、観光と地域の相互の行き交いを生んだり、湯治を国内外に発信するイベント等を多く産んだりしたいなと考えており、 入居者たちに一緒にプロジェクトやってくれないかということで、プロジェクト型のシェアハウスという位置付けでオープンさせたいと思っています。
移住、起業に至る経緯ですが、2001年、大学を卒業してから15年ほど、大手企業のマーケティング戦略やプロモーション等を考えていました。その内3年間は、自ら希望して、経済イケイケドンドンだった上海に行かせていただきました。上海宅のマンションがシャワーしかなく、日本に帰って入る温泉が気持ちよすぎたことがきっかけで、ここでどっぷり温泉にはまっちゃいます。帰国のたびに、あちこち温泉に出かけ、結果、温泉ソムリエや入浴指導員、温泉観光実践士を取っちゃうぐらい、「温泉の知識を得たい」「そして温泉にどっぷり浸かりたい」と考える日々を過ごしながら、150カ所の温泉を巡りました。
その頃、ちょうどTOKYO STARTUP GATEWAY (TSG) に出会います。「起業ってなんか興味あるな、400字って超簡単かも」、ということで面白そうな取り組みだなとメルマガに登録だけしていました。登録だけしてすっかり存在を忘れていた頃、応募締め切り10分前!という連絡を受け、急いで応募しました。こうしてチャレンジはしたのですが、結果、起業は諦め、2015年からは、地方創生のコンサルティングを行う会社に入らせていただきました。「各自治体のことを見てみよう」という思いから、農林水産省や観光庁といった官公庁系の仕事や、地方自治体さんともインバウンドや温泉地開発などを3年間手がけました。
その後、「とりあえず私が行ってきた温泉をせっかくなのでアーカイブせねば」という思いで、「ONSEN WAKIPEDIA」を作りはじめました。「ONSEN WAKIPEDIA」を作り始めて1年程経った頃、TSGでの経験を思い出し、「今が起業すべき時かもしれない」と、その時初めて思ったんですね。サラリーマンだとどうしても、会社のミッションとそれに即した動き方が必要になるし、自分の働き方にも改革をしたくなり、起業を志してみた流れです。
移住についてですが、初めて鉄輪に来たのは昨年2018年の11月で、その際、 鉄輪で湯治宿やギャラリー等の経営者さんたちにお会いする機会に恵まれ、新旧をまぜこぜにしながらも推進力を持って、洗練されたカタチでクリエイトしている勢いに衝撃を受けたことが契機です。私は、「老後いつか温泉地に住みたいな」なんて思っていたのですが、「それは今、叶えてしまえ」という気持ちになったきっかけを、いただいた気がします。それからあっという間に鉄輪に移住して、現在に至ります。
重ねたチャレンジが一直線に繋がった今
ー都市部での暮らしと鉄輪での暮らしを比べて、違いを感じることはありますか?
都市での暮らしは、やはりギスギスしたし感じが私の中にはありました。裸にならないでスーツを着ているな、という感じ。でもこっちに来ると、皆さんが温泉で素っ裸になるように、裸のコミュニケーションでお話ししてくださるし、何より鉄輪の皆さんは温泉のようにあったかいんですよね。なので、自分もここにいていいのかもしれないなと。他の温泉地と比べても、私にとっては特に地域に一体感を感じる場所です。チャレンジしてみたいと思ったし、チャレンジするならここかもしれない、居場所があるかもしれないと思った場所ではありますね。
(見晴台から見た湯けむりと夕暮れの鉄輪。この景観は「国重要文化的景観)に選定されている。)
ー自分が暮らしやすい、生きていて心地よい場所との出会いから、心を決めて何かにチャレンジしていくというお話がすごい素敵だなと思いました。次に、後々に活きたご自身のしくじり談などがもしあれば、教えてください。
「ONSEN WAKIPEDIA」は、立ち上げ当時から収益化やストーリーをあまり考えていなくて。現在も、発信だけなので収益化とか全くできていないので、そういう意味では事前に考えていなかったことはしくじりかもしれないですね。「湯治ぐらし」はそういう反省もあって、どうやって収益化するのか、どれくらいの年数をかけて黒字化するのかを考え、仕入れ面も工夫してと、事前にかなり考えてから動きました。何とかなりそうかなという目処が立ったので、今準備を進めています。ですが、移住してまだ数ヶ月で、自分でもビックリするぐらい進んでいます。その分、突っ走ってしまっている部分もあるので、気をつけながらできるだけ丁寧に実証実験を繰り返していきたいです。TSGでリーンローンチパッドという、「少しだけトライしてみて、失敗してもう一度修正してまたやる」手法を学べたのが、すごく活きています。
ーTSGに応募した締め切り10分間のエピソードを聞かせてください。
2015年5月に、なんか起業したいなと、メルマガだけ登録していたら、とにかく熱い内容のメルマガが送られてきて。私の中をえぐり出す内容をボコボコ送ってくる、やる気をむき出しにさせるメルマガなんですよね。気持ちが乗る時もあれば、普段の仕事が忙しい時はうっとうしいくらいの時も実際ありました(笑)。そこから1か月くらい、気持ちが乗ったり、忙しいから無視したりと繰り返していたら、締め切り日当日に、「締め切り迫る!」と送られてきたんですよね。22時が締め切りの中、21時40分、21時50分に、これでもかというようにメールが送られてきて。そこで私の中のスイッチがやっとオンになりました。それまでサラリーマンという働き方をしていた自分を振り返って、自分がやりたい事と会社が目指す事が少し違ってきちゃったなと、当時、肌感では思っていて。「じゃあ私って一体何がしたいの」と、1回ぶつけて400字に書いてみようかなと思ったんですよね、21時50分に。この10分間で書けなかったら、それは私の負けだと。書けたらとりあえず応募して、どう思われるのか見てもらおう、ということでまとめたら、結局応募できたのは21時59分でした。9分で書くことができたので、今年度の締め切り日、7月7日の10分前に気づいたり、決心したりでも大丈夫ですよ(笑)。
ーTSGに参加して、変化した部分は何かありますか?
振り返ると、私よりも若い学生さんの方とか、学生を途中で辞めて起業しちゃいました、みたいな子達がわんさか通過しているんですよね。当時私は30前半でしたが、全体の中では割と年配者だったと思うんです。そんな若い人たちが第一線でバリバリ情報を取って、どんどんユーザーインタビューしたりして、もう起業に向けてバンバン動いている。私がサラリーマンだった頃に出会えなかったそんな人たちに出会えるので、めちゃくちゃ刺激になりました。
あと、さきほどご紹介したメルマガエピソードの通り、事務局が超熱いんですね。世の中には「起業コンテストです、賞金出ます」とか、山のようにありますが、これは本当に手取り足取りではないですけど、とにかく熱く精神的にもサポートしてくれて、いっちょまえに仕上げてくれるプログラムだなと思います。
ー何かチャレンジをしようという時、モチベーション高く頑張る仲間と繋がることで、自分の動きも加速していきますし、このプログラムに限らずそういう場って世の中に色々あったりするので、そういう場にどんどん顔を出してチャレンジしていく価値に気づかせてくれるお話ですね。
私の初めてのチャレンジがTSGでした。その経験を経て、5年温めた結果、今があるというか。あの時のことが全部、これまでの仕事のことも、日々の生活のことも全部、一直線にパチッと合う瞬間が、私にとって今なんですね。みなさんにもそんなタイミングが来ると思うし、毎日少しずつアンテナ張って磨いておく、ということが大事かなと思いました。
人間の力、個のパワーをもっともっと信じたい。
ー最後に、鉄輪で実現したい未来やビジョンをお聞かせください。
まず、湯治の新しい未来を創りたいと思っています。湯治が廃れつつあることへの危機感もありますが、かつて農民たちが体を休めるために行った湯治というのは、現代の働く人々にも十分通じる・またはもう一度取り入れるべきライフスタイルだと考えています。ばりばり働いて、心と体を休めるために温泉に入ってリチャージすること。これをもっともっと広めて、できる機会を創りたい。次に ICT 、AI 、教育の現場等も変わっていく時代に、もっと人間の力を信じたいと私は思っています。それは体のパワーでもあり、心のパワーでもある。もともと自分の持っている治す力、0に戻せる力、要するに自然治癒力・自己治癒力というのを信じたくて、これをやっているのかなと。加えて、今まで私はサラリーマンとして生きてきましたが、今は個のパワーを信じたいと思っています。自分のやりたい事に対して、他の人のパワーをお借りしながら、信じて信頼して、人生攻めていきたい、そんな生き方をしていきたいなと。これら湯治の未来を創ること・人間が心と体に本来持っている力を信じたいこと・個のパワーを信頼すること、3つの未来の理想像が自分の中にあるので、今こうして活動していると思います。
ー湯治の新しい未来、とはどんなものでしょう?
温泉のいいところは、ゼロに戻してくれることだと思うんです。うまく言えないのですが、傷ついたり頑張った後、マイナスに自分のレベルが落ちていたとしても、そっと温泉は何も言わずに包んでくれてゼロに戻してくれる、整えてくれる。外部の力に頼って直すのではなく、自分の力を信じて、扱い直すからまた元に戻って頑張れる力が湧く、そんなことを温泉は気づかせてくれる。それを私は信じていて。それは生き方でもあるし、考え方でもある。それを気付かせてくれたのが湯治だと私は思っているので、その未来を伝えたいなと。そこまで踏み込めたらいいなと思っています。
―本日はありがとうございました!
*「ONSEN WAKIPEDIA」™ とは
外国人向け湯治啓蒙メディア「ONSEN WAKIPEDIA」は、 現在39カ国6900人を超えるファンを持ち、世界各地へ温泉・湯治宿についての発信や、 そこで生まれる地場産業や食文化、温かい地元の方々から聞いたお話などについても掘り下げ発信しています。
*「鉄輪湯治シェアハウス〜湯治ぐらし〜」™ とは
温泉付きの空き家をリノベして、留学生と日本人学生による湯治をくらしに取り入れた「鉄輪湯治シェアハウス〜湯治ぐらし〜」を2020年2月に鉄輪東にOPEN予定。今廃れつつある貴重な日本の文化である湯治場に、かつてあった「温泉を中心にした地域とくらしとあたたかい会話」を取り戻していくプロジェクトであり、分断された観光と地域の行き交い、若者と高齢者の行き交いを生み、外国人と日本人の垣根をも越えていきます。湯治ぐらしを通じて、今一度、湯治というスタイルにフォーカスし、湯治を再定義していくことで、鉄輪に新しい旅のスタイル・ライフスタイルを。 湯治で生まれてきた地域のコミュニケーションを再興させ、あたらしい井戸端になることを目指します。
*「湯治女子」™ とは
留学生・日本人学生で結成する「湯治女子」は、「鉄輪湯治シェアハウス〜湯治ぐらし〜」で湯治をくらしに取り入れた共同生活をしています。シェアハウス1Fの共有スペースを地元や観光客に開放して、湯治・養生・くらし方・生き方・働き方等について地域イベントをおこしたり、湯治のまち鉄輪で様々な交流イベントを実施したりします。地域と観光を融合し、湯治の新たなライフスタイルを提案するプロジェクトメンバーです。湯治で生まれてきた地域のコミュニケーションを再興させ、シェアハウスがあたらしい井戸端になることを目指します。
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[ PROFILE ]
菅野 静さん(ONSEN WAKIPEDIA ™ 創設者 / TSG 2期メンバー)
菅野静です。 15年の広告代理店勤務・3年の地方創生コンサル勤務を経て独立しました。 広告代理店時代から地方創生コンサルへの転職前に、起業を志し、TOKYO STARTUP GATEWAYに出会い、2期生として参加した経緯です。その後、様々な葛藤を経て、一旦起業を諦め、地方創生コンサルの道へと進むことになります。 その頃、温泉・湯治にどハマりし、「温泉ソムリエ」「温泉入浴指導員」「温泉観光実践士」を取得しつつ、日本にある温泉地の中で、150箇所ほど巡りました。その中で、鉄輪の湯けむりと、この町のこれからの勢いとご縁に導かれ、退職・移住・起業を決意し、つい最近、弾丸引っ越ししちゃいました。 現在は、外国人向け湯治啓蒙メディア「ONSEN WAKIPEDIA」TM創設・運営をしており、39カ国6900人を超えるファンがフォローしてくれるまで来ました。また、「カンコー(観光)ではない、カンケー(関係)をつくるのだ!」をモットーに、暮らしの中に湯治を取り入れる鉄輪湯治シェアハウス「湯治ぐらし」TMを2020年2月にここ鉄輪で空き家をリノベーションして開業予定です。入居予定の別府市にあるアジア太平洋大学(APU)の留学生・日本人学生5名は「湯治女子」TMとしてユニットを組み、温泉湯治や地域とともにどっぷり浸かった共同生活をしていきます。彼女らとともに地域と観光を融合し、湯治の新たなライフスタイルを提案していくプロジェクトで、全国・ひいては世界へと、鉄輪の湯治文化、日本の温泉文化を発信していきます。
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