SNSのつぶやきで思いついた「健康=我慢」を覆す、完全栄養食の味噌汁のサブスク。衰退する味噌を文化として残す挑戦
斉藤 悠斗さん
2020セミファイナリスト/株式会社MISOVATION 代表取締役
#TSG2020#男性#20代後半#会社員#食・ヘルスケア#人脈がない#仲間がいない#行動が加速しない#資金がない#アイデア・構想・プラン段階Posted Date : 2024.03.25
僕らしか作っていないサービスで
お客さんを喜ばせることが大事
今回は、完全栄養食の味噌汁を開発・販売する株式会社MISOVATION(ミソベーション)代表取締役の斉藤悠斗さんにお話を伺いました。
完全栄養食の味噌汁「MISOVATION(ミソベーション)」をDtoCで販売
事業内容を教えてください。
株式会社MISOVATIONは、味噌×栄養学のフードテックベンチャー企業で、完全栄養食の味噌汁「ミソベーション」をDtoC(※1)で販売しています。
ミソベーションは、一杯で成人の1食に必要な栄養素31種類(※2)全てを摂取できる味噌汁の冷凍食品で、水を注いで電子レンジで温めるだけで食べられます。
タンパク質19.7g、ビタミン・ミネラル25種類、食物繊維6.5g、カロリーは250kcalで栄養価に優れています。味噌の種類を毎月変えて届けるサブスクリプションサービスです。
食品業界では現在、完全栄養食が注目され、大手企業も参入しています。ミソベーションは、健康意識が高いけど美味しさも妥協したくない方や、今までの健康食品にある種のディストピア感をおぼえていた方から高い評価をいただいているそうです。
栄養士の知識があっても太ってしまった。食べるのが好きだからダイエット中でも1食もおろそかにしたくなかった
事業が生まれる背景は?
小学校高学年の頃から料理が好きで、家庭科の調理実習ではハンバーグを率先して焼いたり、家では豆乳鍋の豆乳を沸かして湯葉を作ったりしていました。
大学進学でも、調理実習がある東京農業大学の応用生物科学部栄養科学科に進みました。理系でしたが食が好きで、食の学問の道に進み、栄養士の資格もとりました。
大学では、うま味についての研究をしました。日本人は出汁のうま味がわかりますが、海外では感じない方もいます。「うま味」は英語でも「UMAMI(ウマーミ)」と言います。うま味の臨界期という、うま味を感じる器官の発達について研究をしていました。
新卒で大手食品メーカーに就職し、野菜ジュースやサラダの営業等に携わった後、人材紹介業に転職しました。
大学時代は毎日自炊でしたが、社会人になって全くしなくなりました。ハンバーガーやラーメンも好きで、太りました。栄養士の知識があるのに、結局太っちゃうんだな、人は、って思ってからダイエットをしたんですけど、簡素な食事は飽きるんですよ。続かない。
健康でいるためには我慢だと言いますが、僕は本当に食べることがめちゃくちゃ好きでした。食事は1日3回しかない。死ぬまでにあと何回食べられるかわからない食事を1食もおそろかにしたくない。それが今の事業に繋がっています。
Twitterがきっかけでレシピを組んで気づいた完全栄養食・味噌汁
ビジネスアイデアはどのように思いつきましたか?
きっかけは、Twitter(現在のX)でした。
2020年に、東京都主催のビジネスプランコンテスト「TOKYO STARTUP GATEWAY(トーキョースタートアップゲートウェイ、TSG)」にエントリーしました。エントリー当初の事業プランは冷凍野菜のミールキットでしたが、その頃に「味噌汁は完全栄養食だ」というTwitterの投稿を見かけたんです。
ハッとして、実際にレシピを組んでみたらマジで完全栄養食になりました。誰のつぶやきかは覚えていないんですけど(笑)
その後、色々模索していく中で味噌の可能性に気づきました。25種類の栄養素、発酵食品の腸内環境を整える効果、糖質も少なく、高血圧予防効果のエビデンスも出始めていました。
体に良いだけではなく、味噌汁はもともと栄養学的にパーフェクトです。具に入れる野菜によってビタミンとミネラルが無限にコントロールし放題。昔は一汁一菜で味噌汁を具だくさんにして食べていた家庭もあり、本当にまさに完全栄養食とはこのことだと感銘を受けました。
それに気づいてからは、ちょうど2020年の夏は新型コロナウィルスの影響で在宅勤務だったので、始業前に炊飯器に野菜を入れて炊飯モードにしておくと、ちょうどお昼休憩の時に出来上がるので、味噌を溶いて食べるという炊飯器味噌汁生活をしていました。
毎月変わる味噌への想い。うま味、甘味、塩味の3つのベクトル。みんなちがってみんないい
ミソベーションにはどんな特徴がありますか?
ミソベーションには、全国各地の味噌蔵から厳選された味噌を月替わりで使っています。味噌蔵を紹介する「MISO TIMES」というフライヤーも同封されています。
推しの味噌はありますか?
日本全国には1200の味噌蔵があると言われています。例えば、兵庫県多可町の足立醸造さんの黒大豆味噌は、黒豆を使った珍しい味噌で、めっちゃくちゃうま味が強くて美味しいです。
神奈川県小田原市の加藤兵太郎商店さんの味噌は200gの小さいサイズからあってパッケージデザインもすごくいいです。
でも本当に選ぶのが難しいぐらい、みんなちがってみんないい。ストーリーも、味も。味にはうま味、甘味、塩味の3つのベクトルがあって、それぞれ違います。味噌は味に多様性があるのが面白い。まずい味噌はないです。
起業して3年。今感じているのは喜んでいるお客さんの存在と、衰退する市場に挑む難しさ
事業を進めて感じている課題はありますか?
お客さんにはめちゃくちゃ喜んでいただいています。ただ、まだその数が少ない。
スタートアップは新しい市場をつくるので、すぐに売上をあげるのは難しいと思っています。僕らは衰退している市場に、新しい価値をぶつけています。誰もやっていないブルーオーシャンに、全国の味噌蔵さんと一緒に味噌の多様性を示しながら、日本の文化資産として残すことを目的に挑んでいます。それは社会的なインパクトがあることだと思っています。
一方で、業界的にも売上げが伸びやすい事業とはいえません。ただ、利益を出すことよりも、僕らしか作っていないサービスでお客さんを喜ばせることが大事だと思っています。ですが、売上もとても重要だと思っているからこそ、課題感はありますね。
常温化で海外を狙う。クラフト味噌汁にも挑戦
今後の展望は?
今後の展望としては、3つあります。
1つは、常温化です。今は冷凍食品ですが、フリーズドライ製法で常温保存できる商品を開発しています。重さも価格も輸送費も下げることができます。
2つ目は海外進出を考えています。海外での日本食のプレゼンスは圧倒的で、成長するなら海外です。常温化すれば海外も狙えます。
3つ目は新サービスとして『クラフト味噌汁』の販売です。クラフトビールの味噌汁版です。味噌蔵の皆さんが作っているフリーズドライのクラフト味噌汁があるのですが、実はまだあまり認知されていません。そこで、お客さんの味の好みと栄養状態に合わせてパーソナライズする新しい仕組みを作ろうとしています」
顧客のジャンクなものを食べたい、好きなものを食べたいというニーズもあるので、そういった個別の好みに対応するための診断を取り入れながら、創っています。
事業のつくり方がわかったリーンスタートアップ
TSGのプログラムの中で効果的だったものは?
株式会社スケールアウト共同代表の飯野将人さんによる「リーンスタートアップ」が最高に有益で、早く出会いたかった。こうやって事業を作るんだってわかりました。宿題のユーザーインタビューでは同僚や周囲100人くらいに
・どのくらいの価格帯なら買うか。
・普段野菜不足を感じているか。
・健康的で美味しいものと、健康的でまずいものは、どれぐらいの価格差ならスイッチングするか。
を聞きました。他にも、同世代の起業家10人くらいに話を聞きに行き、環境が変わりました。インタビューやアドバイスを求めるって、その人を巻き込むことなんですよね。“こういう事業をやりたいんです”と言うと、”絶対やったほうがいいよ”と言われて、よりやりたい気持ちが強くなりました」
人生を変える合否のメール
TSGを振り返って印象に残っていることは?
毎回の合否メールはテンションが上がりましたね。次に進めたら人生変わるんじゃないかという期待感。TSGが自分を違う方向に導いてくれる可能性を感じていて、刺激的でした。ファイナリストに進めなかった時のメールは悔しくて引きずりましたけど(笑)
セミファイナリストに選ばれた翌年の2021年2月に退職して、翌月3月2日に登記されました。その時のことを教えてください。
具体的にプロダクトを作って商品をリリースするイメージが湧いていたことと、セミファイナリストという評価をいただいたことで自信をもちました。自然と一歩を踏み出していて、重い選択ではなかったんです。
TSGは半年間という長期のコンテストなので、自分の時間をたくさん使いました。だからこそ諦めるのはもったいない。また1年会社員として去年と同じ事やるのか、それで来年また挑戦するのか、でもそれって待っているだけだし、せっかく評価いただいたのにそれでいいのかと。
実は、2次選考を通過したぐらいから、これなんとなく行けんじゃねっていうマインドになって、夏にはもう会社辞めようと思ってるんだよねって周りに話し出していたんです。結果がどうなろうとも。
起業したいけど具体的に決まっていない、何から始めたら分からない方にTSGはおすすめ
これから起業を考えている方やTSGへのエントリーを検討している方にメッセージをお願いします。
間口が広くてライトで、得られるものはやばい。そういう『最初の一歩』がTSGです。東京都がやっている圧倒的なお墨付き感があって、ピッチ、リーンスタートアップと進んでいく。「起業したいけど具体的にやりたいことが決まっていない」「何からはじめたらいいか分からない」という方に一番オススメしたいです。
私自身もそういう迷いを持ちながらTSGに応募しましたが、応募当時は本当に自分が起業するとは思っていませんでした。選考が進んでいく中で、少しずつ自分のやりたいことや事業のつくり方が見えてきて、走り続けた結果が今に繋がっています。少しでも起業に興味がある方が一歩を踏み出すきっかけとなれば嬉しいなと思います。
最後に、味噌汁は毎日飲んでください。ミソベーションじゃなくてもいいんで毎日飲んでください。味噌をお湯で溶かして飲むだけでもいい。豊富な栄養素が摂れるだけでなく腸内環境も整いますし、味噌汁を飲むと健康になって病気になる人が減ると確信しています。それが僕らの目指している世界です」
TSGエントリー時の400文字
誰もが無意識的に健康を維持できる世界を実現したい。 近年、人生100年時代を生きる上で大切な「健康」への意識が高まる中、バランスの取れた食生活を継続することのハードルが高いと感じている。痩せたいと思っていても「美味しくない、楽しくない、手間がかかる」といった理由でダイエットが続かない。気がつけばラーメンやハンバーガーなど高カロリーなものばかり。帰り道には習慣化しているシメのコンビニアイス。日々の誘惑に負けてしまう。栄養士である私もその1人だった。 そこで潜在的な健康意識を持つ20〜30代向けに「美味しさ・楽しさ・手軽さ」を感じられる食体験を提供したい。具体的には、日々の食事の写真を撮るだけで摂取した栄養素をデータ化→各個人に合わせて不足した栄養素を補うパーソナライズ冷凍食品を宅配する。 食による予防医療を当たり前化し、将来的には生活習慣病患者の減少および医療費の削減、健康的なミドル〜シニア層の活躍による日本産業の活性化を目指す。斉藤 悠斗さん
2020セミファイナリスト/株式会社MISOVATION 代表取締役
1994年生まれ。宮崎県出身。栄養士。東京農業大学応用生物科学部にて栄養学を学び、研究室ではうま味に関する研究に従事。大学卒業後、カゴメ株式会社、株式会社リクルートキャリアにて勤務。「重度の認知症となった祖父の介護経験」「味噌の国内需要が減り伝統的な味噌蔵が減少している現状」がきっかけとなり、味噌を通じた食の予防医療推進を行うべく2021年に株式会社MISOVATIONを創業。HP: https://misovation.com/
公式instagram: https://www.instagram.com/misovation/