自分のコンプレックスが事業立ち上げのきっかけ。胸が大きな女性のためのブランドoverE
和田 真由子さん
2016セミファイナリスト/株式会社エスティーム・overE代表
#TSG2016#女性#20代後半#起業準備中#美容・ファッション#人脈がない#仲間がいない#自信が持てない#資金がない#事業化・サービス開始の準備中Posted Date : 2024.03.30
共感できる仲間やユーザーのおかげで
自然に自己主張ができる自分に戻れた
トリンプ下着白書によると、2018年の時点で、バストサイズがEカップ以上の女性は26.8%。4人に1人がEカップ以上です。胸が大きい方は、市販の服のサイズが合わず、気に入ったデザインの服が着られない、他人の視線が気になり猫背になるなどの悩みを抱える方も多い一方で、「贅沢な悩み」と思われることもあり、声を上げにくい状況があります。そのような課題を解決する、胸の大きな女性のためのアパレルブランドoverE(オーバーイー)を手がける株式会社エスティームの和田真由子さんにお話を伺いました。
日本人女性の4人に1人はEカップ以上。胸の大きな女性のファッションの悩みを解決するブランド「overE(オーバーイー)」
事業について教えてください。
株式会社エスティームは、胸の大きな女性のためのアパレルブランドoverE(オーバーイー)の企画・製造・販売のほか、商品プロデュースやプロモーションを行っています。
overEの商品は、自社のオンラインショップを中心に全国の商業施設などでのポップアップで販売されています。2023年1月には、スーツメーカー株式会社コナカと業務提携を結び、共同開発したシャツとジャケットがコナカ、フタタ、SUIT SELECTの全国200店舗で販売中です。
ビジネスアイデアを思い浮かべては脳内で遊んでいた大学生時代
起業に関心をもつきっかけは?
大学生の頃から起業を意識して、ビジネスアイデアを書き留めていました。政治家だった祖父に憧れて政治家を志しましたが、大学では人間関係に悩み、引きこもり生活となりました。その頃に読んだ本で起業家という生き方を知りました。引きこもり、大学中退、発達障害など、様々なバックグラウンドがあっても自分らしく生きている起業家の存在を知って、ビジネスに関心をもち、「私だったらどんなビジネスができるだろうか」と、身近な困り事とその解決方法を探し、ビジネスになるのか自問自答を繰り返していました。
例えばマスクを例にすると、マスクの紐が細いと耳の後ろが痛くなります。幅の広い紐に変えたり、耳の後ろに当たる部分に柔らかいものをつけたり、というアイデアが浮かびます。でもマスクは商品単価が低いので、大量生産して全国流通できる企業に適したビジネスです。個人がやるなら、もっと付加価値をつけて単価の高い商品を開発しないと成り立たない。
だとしたら、私にできるビジネスは何だろう?こんなふうに脳内で遊んでいました。街を歩いても、目にしたものからアイデアが浮かぶと楽しくなります。大学時代に始めたビジネスアイデアをノートに書くことは社会人になっても続けていました。ノートはA4 100ページ綴りで3冊にもなりました。
東京マラソンに出場。「ありがとう」の声援を受け、起業を決意
実際に起業しようと決めたのはいつですか?
2015年2月、出版社に入社して2年目、会社の人の話を聞いて、なんとなく応募した東京マラソンに当選したんです。初めてのフルマラソンで、沿道からの声援を受けて走り続けていると、失っていた自己肯定感が高まってきました。
30キロを超えてあと10キロという時、ボランティアの方や応援してくださる方への感謝の気持ちが溢れてきました。チョコレートと水の差し入れをもらって、お礼を言って受け取ると、その方も『ありがとう!』と言ってくださって、感動しました。
頑張る姿を見せることは、他の誰かにも貢献できるのかもしれない。私は、今感じている感謝の気持ちを、他の誰かに還元できる人になりたい。“そうだ、起業しよう!”と、完走した時には起業することを決めていました。
働きながら起業セミナーに通い、ビジネスプランを磨く
起業するためにどんなことをしましたか?
東京マラソンの翌月から、行政主催の起業セミナーに通い始めました。この頃に「overE」のビジネスアイデアが生まれました。カリキュラムの中で、複数のビジネスアイデアを持ち寄り、絞り込んでいく過程の中で、私自身の体験から思いつきました。下着メーカーが開発した「胸を小さく見せるブラ」を着けると、今までずっと悩んでいた「太って見える」という悩みが改善されたんです。気持ちが重かった洋服選びが、ポジティブなものに変わりました。その時、「この悩みは、洋服の仕立てでも解決できるかもしれない」と思ったんです。
当時は、D2C(※1)型のサービスや、アパレル業界への個人ブランドの参入が始まった時期でもあり、この追い風に乗ろうと思いました。
いよいよ起業が現実的になってきましたね。次のステップは?
その後、起業資金を貯めようと転職しますが、不動産投資営業のテレホンアポインターの仕事は合わず、25日間で適応障害を発症し退職。再び引きこもり生活になり、改めて「もう起業するしかない。今、事業をつくり始めないと」と決意を固めて動き出しました。が、商談をしては寝込み、電話を1本かけるのに3日間かかった時もありました。
起業には2パターンあって、しっかり準備して始める方と、状況に追い詰められて始める方がいると思います。私は、後者でした。適応障害になって、これからまた再就職先を見つけるくらいなら、もう起業する。と思ったんです。その時の私にとっては、再就職の選択肢より起業のほうが簡単かもしれないと思ったんです。そんな時に、東京都主催のビジネスプランコンテストTOKYO STARTUP GATEWAY(TSG)を知りました。
ビジコンに出場しながら法人登記し、ネットショップ開設のスピード創業
TSGにエントリーしたきっかけは?
以前通った起業セミナーの主催者からのメールがきっかけでした。運営するエティックの存在を知っていた友人にも背中を押されました。体調がすぐれないなかで、なんとかエントリーの書類を書き上げ応募しました。
●エントリー時の400文字
胸が大きい女性、これを仮にEカップ以上とすると、国内にどの位いると思われますか?
正解は全女性の24%(2014年度トリンプ・インターナショナルジャパン調べ)!なんと4人にひとりの割合で存在するのです。
私が立ち上げる「overE(オーバーイー)」は、そんな胸が大きな女性達のファッションに特化したブランドです。
現在、日本にこのようなブランドはありません。胸が大きい女性は強調される恥ずかしさや、実際よりも太って見えるという悩みを抱えています。
実は私自身、そんな悩みの種である胸がコンプレックスでした。ですが、まれにスタイル良く服を着れた日は、とても晴れやかな気持ちになりました。胸のことも、自分のことも少し好きになれました。
ですから私は、胸が大きな女性に光を当て、もっと毎日が輝くような、もっと自分を好きになれるようなファッションを提案していきます。そして、その成功によってイレギュラーサイズ市場を活性化させ、より多くの人々を輝かせます!
寝込みながら起業準備している私には、400字だけでエントリーできるのがありがたかったですね。エントリー後は、TSGの半年間のプログラムの最中である2016年8月に、株式会社エスティームを登記しました。
登記と同時に、クラウドファンディングも行って、同じ悩みをもつ女性たちにメッセージを届けながら第1号の商品となるシャツを完成させて、10月にはオンラインショップもオープンさせました。
和田さんにとってTSGとは?
決勝大会後の打ち上げで同期と仲良くなれたことの意味は大きかったです。TSGの期間中は、事業が忙しく、人見知りだったこともあり、同期との交流はできませんでしたが、打ち上げではお酒の力も借りてたくさんの方と話せました。起業している方も何人もいて、創業期の事業計画や、お金、次に何をするかなど、何でも開示できる親友が2人もできました。
他の同期にも開発中のプロダクトの話を聞いたり、サービスを体験させてもらうことで励まされました。1年くらいは月1回以上同期と会っていましたね。
起業してよかったと思えているのは、TSGでの出会いが大きいです。会うたびにポジティブな気持ちになれる環境が良くて、私も起業家として生きていこうと思える。人間関係への苦手意識もなくなりました。TSGは心の支えであり、事業の支えでもありました。
起業家から経営者へ。アパレルの既成概念にとらわれない新規事業を。海外展開やメンズ事業も
起業してから7年、今後のビジョンは?
登記して5年目くらいからは、私自身が変わったような気がします。まるで中学生くらいの本来の自分に戻ったような感覚です。自然に自己主張ができるというか。それまでは、人の目を気にしたり、無駄に謙遜してしまったり、嫌われないように生きていた気がします。経営者としての自信がついてきたのかもしれません。 事業成長、売上増、黒字化、業務資本提携と解消、スタッフの離職など数々のハードな状況もありましたが、なんとか乗り越えてきました。
今後は、海外展開やメンズ事業など、アパレルの既成概念にとらわれない新しいチャレンジをしていきたいと考えています。同時に、overEというブランドも、引き続きお客様と一緒に創り、育てるブランドという本質を大事にして、ブランドとして成長させていく努力も続けていきます」
起業だけでなく、現状にもやもやしている方にもおすすめしたい
TSGへのエントリーを考えている方へのメッセージをお願いします!
私も、普通の会社員からのスタートでした。起業に必要な覚悟も、ビジネスについても、カリキュラムの中で学ばせていただきました。
overEは、「あなたの悩みは他の人にとっても悩みかもしれないよ」という一言から着想したビジネスです。
TSGに参加した当時は、この事業を自分がやる意味や社会的意義についてまだ腑に落ちていなかったように思います。自信もありませんでした。ですが、このプログラムを通じて、何度も事業計画を書き、同期やメンターに話すうちに、少しずつ自分がやる意味がわかっていたんです。そして、起業の一歩を踏み出すことができました。
TSGは、今は起業を目指していなくても、自分を変えたいと思っている方にとっても、自分や社会と向き合う素晴らしい機会になると思います。現状にもやもやしている方、自分自身の中に課題を感じている方も、ぜひ400字でチャレンジしてほしいと思います。
少なくとも人生にとって素敵な出会いやきっかけになることはお約束します!
(※1) Direct to Consumerの略。仲介業者や店舗を通さず、ECサイト等から直接顧客に販売する手法)
和田 真由子さん
2016セミファイナリスト/株式会社エスティーム・overE代表
1991年生まれ。山形県出身。政治家を目指し筑波大学に進学するも、よりダイレクトに社会に想いを届ける生き方として起業に関心を持つ。3年間、編集者兼ライターとして出版社に従事した後、会社設立。同時に胸が大きな女性に光を当てたアパレルブランド「overE」をリリースするとメディア・SNSで話題に。2018年より商業施設でのポップアップショップを連続開催する。東京都主催のビジネスコンテストTOKYO STARTUP GATEWAY2016セミファイナリスト。HP: https://www.esteem-inc.com/
WEBサイト: https://overe-shop.com/