休職した経験を生かして起業。AI×内省で働く人のウェルビーングを支援するアプリ開発
隆 祐人さん
2022ファイナリスト/株式会社TIELEC 代表
#TSG2022#男性#30代前半#会社員#アプリ開発#ライフスタイル#人脈がない#仕事で時間が取れない#仲間がいない#家族の賛同が得られない#自信が持てない#行動が加速しない#資金がない#事業化・サービス開始の準備中Posted Date : 2024.03.26
言い続けたからこそ、
妻に理解をしてもらえた
Chat-GPTや生成AIなどの技術が発達し、業務は効率化が求められています。その結果、業務の中で扱わなければいけない情報量は増え、働く人たちの悩みは尽きません。エンジニアであり、マネージメントをする中で自身も休職の経験を持つ隆祐人さんに、課題が多様化し複雑な社会を生き抜く人に必要な「内省」の力に着目した背景や熱い想いを伺いました。
AIと先進的な理論の融合で、内省を促す新時代の自己理解ツール
今取り組んでいるプロジェクト・事業を教えてください。
内省支援AIサービス「リフクラ」を提供しています。
AIと対話しながら、悩みや不安を言語化することで、深い内省を促していきます。
振り返りと目標設定の機能があり、「経験学習モデル」「U理論」「インテグラル理論」など先進的な理論を融合した独自プログラムで、セルフコーチングや自己理解を促すことができるアプリです。
1日15分間の振返りでの生産性が向上しますし、AIだからこそ心理的な安全性があるのも特徴です。
起業のきっかけは自身の休職。ティール組織の本に出会い、「内省」の大切さを再認識した。
ビジネスアイデアを思いついたきっかけは?
私自身がエンジニアでマネジメント職をしていた時に、メンタル不調で休職したことがきっかけです。その時に初めて自分自身としっかり向き合いました。
どのようにアイデアが浮かびましたか?
自分と向き合い、内省の大切さを感じ、自分の棚卸しを始めました。
ストレングスファインダーで自分自身の強みの再認識をしたり、リクルートが提供しているキャリア志向調査(R-CAP)を受けました。
起業に関する本も読んだことで、WILL × CAN × MUSTで掛け合わせ、20個くらいのビジネスアイデアが出てきました。
何がきっかけで、自分の心に火が付きましたか?
漠然と「エンジニアのスキル×何かをしたい」という想いから始まりました。
その中で、『ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現 フレデリック・ラルー著』という本と出会いました。その本では内省することの大切さがかなり熱く語られていて、強い衝撃を受けました。
一般的な組織では、経営層がビジョンを考えて、ビジョンをメンバーに落とすようになる。シンプルなタスクベースに落とし込まれると、組織は動いていくようになります。
ティール組織では、自律的に考えて周りの意見を聞いて進めることが前提にあります。
そのため自分で考えて、他の人にフィードバックを得ていく必要があるのです。また、ティール組織は自律分散型の組織なので、内省がより必要になります。
そして、私自身がエンジニアなので、その経験も生かしたいと思いました。
効果的な方法を考え抜くことで生まれた独自開発のフレームワーク
どのようなプロトタイプを作りましたか?
最初のプロトタイプはアプリケーションですらないです。
「内省」のキーワードに気づいた時から、どのようにしたら内省が効果的にできるのかを学ぶために研修に参加したり、本を読んだりしてひたすら考え抜き、パワーポイントで概念をまとめました。
そんな中で、問いかけのワークショップに参加している中で、自分と深く対話できる時とできない時がありました。
深い対話の再現性を生み出すものは何なのか?と探究し、更に知識をインプットしていきました。
そして、見つけたのか「事実→感情→解釈→意味→決定」の5つの順で問いかけをするというフレームワークです。
既存のフレームワークでは「解釈」と「意味(付け)」は同じ概念とされていたのですが、分けてみると、自分の中でズバッとはまりました。
・「解釈」は、外側にある世界を理解する
・「意味(付け)」は、自分の中にあるものを外に出す
この5つの順で実際にワークショップをしてみた時に、参加した方々からも深い内省ができたと感謝されたのです。
コンセプトや概念の精度を高め、ユーザーの声を開発に活かす
プロトタイプの改良のために泥臭くしていたことは?
内省の効果的な方法の研究を泥臭くやっていたので、ワークショップにはたくさん参加しました。「経験学習モデル」「U理論」「インテグラル理論」「コーチング理論」「ナラティブセラピー」等のたくさんの内省に関連する本も読みました。
周りの人にもフレームワークを使って内省を体験してもらい、コンセプトや概念の精度を高めていきました。
ORIMDフレームワークを使ったワークショップでは、参加者から「ワークの最初と最後で自分の考えが変わるのが面白い」「自分が意識していなかった答えが出てハッとさせられた。でも違和感がなくて、自分ってこんな事を思っていたんだと自己理解につながっている気がする」といった声も頂き、開発したフレームワークの効果を感じました。
ワークショップ参加者の声は、アプリ開発にも生かしています。
実際に最初のお客様にまで出会うのにかかった時間は?
TSGの翌年の2023年2月にクラウドファンディングを行い、
色々な方に応援いただき、プロジェクト達成できました。
2023年6月には正式版をリリースしました。
プロトタイプに興味を持ってくれた方の意見を取り入れ、正式版の開発を進めてきました。
社会にも家族にも内省の必要性を理解してもらえなかった
事業を進めていてぶつかった壁、大きな課題はありましたか?
社会全般的に、自分と向き合うということについての啓蒙・普及が足りていないと感じています。
投資家の方とか経営機関の人と話すときには、融資や投資した成果の手触り感が大事だと聞きます。
しかし、内省したらこう良くなるというのが、分かりにくい。
実績を細かく積み上げて定量化することが重要だと考えています。
また、起業には、家族の賛同も大切です。
2019年頃から起業の意思があり、休職からの復帰と同時に準備をしてきました。
当時は「内省」というテーマだけで、何をするか不十分で、2020年に結婚した妻にはサービスの内容を伝えても、「内省といっても良く分からない。これが仕事になるの?」と言われました。
それをどのように乗り越えましたか?(もしくは乗り越えようとしていますか?)
妻には、諦めず何年も言い続け、やってみたらと言ってもらえました。
また、妻の得意なWEBデザインの部分で、仕事に巻き込んだことでも理解を深めてもらえたと思っています。すぐに納得してもらえなくても、長い時間をかけて伝えていくことが大切だと感じました。
事業面では、今後はインスタの運用など、マーケティングに力を入れていきます。
Instagramは女性ユーザーが多く、内省好きな方も多いと思うので、ユーザーとの相性を考えて、強化したいと考えています。
内省は、経済産業省が提唱している『人生100年時代の社会人基礎力』の中で、リフレクション(振り返り)として、人生におけるバランスを取るために必要な能力として解説されています。ビル・ゲイツ氏が年2回の『内省の旅』に出ることや、松下幸之助氏や稲盛和夫氏もその重要性を度々話しています。
内省力の格差をなくし、ウェルビーングな人を増やす
事業を通じて実現したいビジョンや創りたい世界を教えて下さい。
企業理念として、「内省する力の格差を世の中からなくすこと」を掲げています。
近年、日本社会は深刻なメンタルヘルス問題に直面しています。新型コロナウイルス流行後の2020年には、うつ病、うつ状態の人の割合が前年比で2倍に増え、17.3%に達しました。
このような状況下で、キャリア・職場での悩みも抱える人も増えています。しかし、日本では専門家に相談する文化が未だに育っていません。リフクラを通じてこのような問題を解決し、いつでもどこでもAIとの対話で自分自身と深く向き合える内省環境を身近にしていきます。
そして、内省する力の格差をなくし、多くの人が日々ウェルビーングな状態で生きられる未来をつくりたいです。
TSGはどんな価値がありましたか?起こった変化や気づきなどがあれば教えてください。
色々なサポートや人とのつながりを作ってくれました。
TSGで関わった人たちとのつながりは大きな財産ですし、起業のための支援策など、TSGが終わった後もビジネス面でサポートいただいています。
これからTSGにエントリーする方・起業に挑戦する方へ応援メッセージをお願いします。
起業しようと悩まれている方の中には、何かやりたいけれどうまく踏み出せないという方もいらっしゃると思います。
いかに解像度高く、自分と向き合えるのかが大事。
自分なりのやり方で、自分自身を深く知り、向き合うことでピタっとやりたいことが見えてくると思います。
すぐに見つからなくて半年・1年かかるかもしれないけれど、これだと思えるものが見つかるときが来るので頑張ってください!
TSGエントリー時の400文字
世界のすべての人が内省する力を適切に身に着け、自己実現に向かって歩んでいくことのできる力を育てたいと思っています。内省は自分の心に問いかけ、自分を知ることですが、その重要性や、やり方については世の中にあまり浸透しているとはいえない状況です。一人ひとりが内省する力を高めることで、自分の人生を自分で決めて生きていけるようになります。人生100年時代と言われる中自らキャリアを切り開いて前に進んでいくことが求められており、内省はそのための軸となるスキルです。 私は、内省を効果的に行うための方法について研究を重ねてきました。そして、誰もが簡単に深く自分と対話ができるORIMDというフレームワークを開発しました。現在ORIMDのフレームワークをベースとしたウェブサービスを開発しており、1回15分の内省で悩みや不安を解消することが可能な仕組みの提供をしていきたいと考え準備をしています。隆 祐人さん
2022ファイナリスト/株式会社TIELEC 代表
1989年生まれ、神奈川県出身。2013年にEPRソフトウェアベンダーである株式会社ワークスアプリケーションズに入社。ITエンジニアとしての成長を目的に多忙な日々を送るが、初めてマネジメントを経験した際に心労が重なり、休職を経験。この出来事が契機となり自分と向き合うこと(内省)の大切さに目覚める。以後、内省の研究を続けており、自身の考案した手法(ORIMD)を世の中に広めるために活動している。WEBサイト:
https://www.tielec.net/
https://reflectioncloud.achireth.onl/