育児を理由に「諦める」を払拭したい! ”習い事×出張託児”のキッズプログラムで国内外のパパ・ママを応援
諏訪 実奈未さん
2022セミファイナリスト/株式会社Simplee 代表取締役社長
#TSG2022#女性#20代後半#会社員#子ども・子育て支援#人に頼る・任せるのが苦手#仲間がいない#家族の賛同が得られない#育児で時間が取れない#行動が加速しない#資金がない#事業化・サービス開始の準備中Posted Date : 2024.03.26
「母親モード」と
「起業家モード」の両立
子どものいる生活は、日々、子どもの成長を見守る充実感があります。一方で「自分のやりたいこと」があっても「子どもがいるから……」と諦めた経験のあるパパ・ママも多いのではないでしょうか?
「育児を理由に”諦める”を払拭する」をミッションに掲げ、イベントや企業への出張託児サービスを展開しているのが、株式会社Simplee(シンプリー)代表取締役社長の諏訪実奈未さんです。自身も一児の母であり、出産後に事業を立ち上げた諏訪さんは、起業前〜現在に至るまで、数々の泥臭いチャレンジと学びを続けています。
諏訪さんは、どんな壁にぶつかり、どのように乗り越えたのか? これまでのお話を伺いました。
自身の経験がビジネスアイデアの源に。パパ・ママが罪悪感なく子どもを預け、やりたいことを「諦めなくて良い」環境をつくりたい。
現在、諏訪さんが展開している事業の内容を教えてください。
「育児を理由に”諦める”を払拭する」をミッションに掲げ、イベントや企業への出張託児サービスを提供しています。オフィスやホテルの中を託児スペースとして、弊社が厳選した保育士を派遣します。
サービスの特徴は、主に2点あります。
1点目は、+αの付加価値として、出張託児と同時に「習い事」を提供していること。日本ではまだシッター文化が浸透していないため、子どもを預ける「託児」に罪悪感を覚える人が多くいらっしゃいます。私自身もそうでした。一方、子どもを習い事に連れて行く時は、肯定感を覚えます。この溝を埋められないかと考えました。
2点目の特徴は、申込プロセスを全てDX化していること。オンライン上で完結できるため、書類は一切不要。手続きの時間・手間を省いたサービスとなっています。
サービスのターゲットは?
現在は「学会や行政のイベントでの臨時託児」と「インバウンド」の二つを軸にサービスを展開しています。例えば育児中のパパ・ママが土日の勉強会に行く場合、どちらかに育児の負荷がかかってしまいますが、会場で託児ができれば、相手に自由時間をプレゼントできます。またインバウンドのターゲットは、海外からスキーやダイビングなどのレジャーや買い物を目的に来日している方々です。ホテル等の目的地で「育児プログラム」を提供し、より滞在期間を楽しめるようサポートしています。
ビジネスのアイデアを思いついたきっかけは?
私自身、4歳児の子育てをしながら働いています。この数年間で、育児を理由に諦めるという体験を繰り返してきました。例えば会社の勉強会は夕方や土日の開催が多く、何度も参加を見送りました。育児が理由で諦める、その体験を変えていきたいと思ったことがアイデアの源にあります。
朝4時に起床。朝時間に勉強をして粛々と起業準備!習慣化の大切さを実感。
起業前、スキル面ではどのような課題がありましたか?
当初のビジネスアイデアは「保育園の申請書類をDX化するWebアプリケーション」でした。しかし、私にはプログラミングのスキルがなく、形にできていない点が課題でした。プロダクトがないと誰も納得してくれないと思い、2019年頃から独学でプログラミングの勉強をスタート。さらに2022年の1月からプログラミングスクールに入り、3ヶ月間オンラインで猛勉強しました。その甲斐あって、卒業後はホームページや簡単なアプリが制作できるようになりました。
育児、家事、会社員としての仕事もしながら、いつ勉強や起業準備をしていたのでしょうか?
子どもが起きると主婦・母親モードになってしまうので、朝の時間に着眼しました。朝4時に起きて、家族が起きる7時までの間に勉強や起業準備を進めていたので、資金調達をするまで主人にも気付かれませんでした(笑)。会社のお昼休みには、外部の方とMTGをしたりコーディングのアウトプットをしたりと、隙間時間をうまく活用しました。
時間管理のコツは感情を入れずに、ひたすら習慣化すること。3年経つと違和感が全くなくなります。今も朝型生活が当たり前。目覚ましなしで、最低でも5時台には起きています。
資金調達で起業家としての知識不足が露呈。継続的に挑戦し、学びを深める。
プロダクトが完成した後は、ピッチコンテストに出場?
2022年6月にピッチコンテストに出場し、嬉しいことに優勝できました。会場に来ている方や審査員の中から「同じことを思っていました」というご意見を沢山いただき、自分の想いに共感してもらえるんだと発見がありました。実は、ずっと一人でアプリを作っていてコンテストに出るまで、事業のアイデアを家族にも誰にも話していなかったので、初めて得た反応でした。産後は家にこもっていたこともあり「自分のアイデアなんか大したことない」と本当に自信がなかったんですよね。
優勝後、すぐに複数の投資家から声が掛かったのですが、この時点では通常の会社員、一児の母でしたので、「バリュエーション」「J-KISS」「バーンレート」など専門用語を言われても、意味が分からなくて……。起業家として必要となる、資金調達をはじめ起業に関連する知識が足りないと痛感しました。
知識不足をどのように解消したのですか?
起業をサポートしてくれるプログラムがないか検索をして「TOKYO STARTUP GATEWAY(以下、TSG)」や「APT Women」を知り、応募しました。TSG2022では「セミファイナリスト(1200名のうちの10名)」に選出され、APT Women40社にも選出いただきました。またこの時期に、港区の創業認定も取得しました。
TSGとAPT Womenでは、各プログラムを通じて起業に向けての知識が深まりました。特にTSGでは資金調達について詳しく教えていただき、「バリュエーションってこういうことか!」「皆さんはこうやって調達されているのか!」など、知識を深めることができました。また同じ志を持つ仲間と出会えたことも大きかったです。
ユーザーとの対話を繰り返し、ようやく辿り着いた初めての入金。逆境に陥ったときこそ「人との接点」を大切に。
その後、資金調達をされたのですか?
翌年の1月・3月に4社から資金調達をしました。TSGで得た知識を活かし、自分の納得のいく条件で進められました。またTSGで「スタートアップは資金がショートするケースが多い」と教えていただいたので、すぐ「ものづくり補助金」にもエントリーをして、採択していただきました。行政書士に委託するお金がなかったので、補助金申請や報告書作成は全て自分で行いました。「TOKYO創業ステーション」などの無料枠で何度も予約をして、しつこいと思われるくらいに相談し、指摘されたことを直す……。泥臭い作業を何度も繰り返しました。
最初のお客様が見つかったのは、資金調達後、どれくらい経ってからですか?
2023年秋です。資金調達をしてからが本当に長くて……。7月に展示会へ出展したところ、ユーザーさんの反応は厳しく、自分のプロダクトは微妙なのではないかと思い始めました。とにかく多くの人の意見を聞こうと、7月・8月・9月は展示会の前後で合計300人くらいの声を聞きました。周りの意見を聞いてピボットした先に、ようやくお客さんが付き、10月に初めての入金がありました。サービス提供の対価が入ってくるようになり、感動しましたね。
これまでの歩みを振り返って「こうしておけば良かった」と思うことはありますか?読者へのアドバイスもあればお願いします。
2点ありますが、まず1点目は、早くユーザーに会って、意見を聞くべきということ。お客様から必要とされてお金が入るまで、ユーザーと対話し続けたほうが良いと思います。ピボットを続けている間は「このまま続けても、社会に受け入れられないかも」と焦るばかりでした。でも諦めなければ、必ずピッタリはまるので大丈夫。お金が入ってくればもっと安心します。
2点目は、ユーザーから評価され、沢山依頼が来るようになったら、最初は数社に限定して向き合うべきということ。私の場合、最初は受け入れられるだけ受け入れたほうが良いと思い、全ての依頼を受けていましたが、途中で手が回らなくなってしまい……。私がパンクするとお客様に中途半端なものを提供してしまい、組織もダメになってしまうと身に染みて分かりました。これは自分で体験してみないと分からないことでしたが、この記事を読んでくださっている方にしっかりと伝えたいです(笑)。
自信をなくしたり、逆境に陥ったときの立ち直り方法はありますか?
「自分を褒めてもらえる機会」をもつと、その後の自信にもつながります。2024年だけでも「さわやか信用金庫賞」受賞や「札幌市主催STANDOUT優勝」などをいただきました。審査員からの「本当に重要なサービス」などのお褒めの言葉が、次に進む原動力になっています。
また、一人の世界にこもるのではなく人と話し、自分の何が不安なのか?を言語化することが大切。私の場合は、起業家仲間など同じ立場の人や利害関係のない人に、自分の悩みや弱音をボソっと言うようにしています。「こうして乗り越えたよ」「みんな同じだよ」などと共感してもらえると、安心できますね。TSGの仲間やメンターとは、今でも連絡を取り合っています。
TSGの経験は、まさに起業への入口。自分の「やり方」に合わせて、諦めずに前進あるのみ!
TSGにエントリーした当時の400文字について、どんな点が変化したと思いますが?変化のきっかけとなった出来事も教えてください。
エントリーした当初は、保育園の入園書類のDXをテーマに起業を考えていました。TSGには「 かんたん保育申請-Simply」というプロダクト名で応募しています。
●エントリー時の最初の400文字
わたしは1児の母として、子育てをしつつ、まさに保育領域の紙管理にペインを感じている日々を送っています。 とりわけ想像を遥かに超える大変さ、それは保育申請でした。
初めてだらけの育児において、自信の趣味への時間はもちろん、睡眠時間も食事の時間も削られているにも関わらず、保育園の申請は非常にアナログで、大量の書類に手書きをし、保育園や役所に直接届け、しかも申請が通るまでの間、延々とその作業を繰り返さねばならなりません。さらに入園後の日々の紙ベースなやりとりは、時間や物理的制約を生み出し保育者にとって多大な負担となっています。
そうした課題を解消すべく、保育書類の作業軽減を目指したSimply(シンプリー)というWEBアプリケーションの開発に取り組み始めました。
ここから、実際に市場にリサーチをしてユーザーの意見を聞いたり、私自身の子育て経験を経て、出張託児サービスへと変化していきました。サービス内容は変わりましたが「働く親をサポートしたい」という志は変わりません。
TSGの参加にはどんな価値がありましたか? 得たモノ・コトを教えてください。
3つあります。まず、知識のシャワーを浴びられたこと。そして、2点目は利害関係なく話せる仲間やメンターとの出会い。3点目は、TSGをきっかけに外部への情報発信やコネクションができたことです。TSGのHPを見た投資家から連絡をいただいたり、いろいろなつながりができました。まさに「Gateway」の言葉通りだなと思います!
これからTSGにエントリーする方・起業に挑戦する方へ応援メッセージをお願いします。
私の場合、非効率に進んできましたが、それでもちゃんと目指す場所に辿り着きました。事業に「効率」はないと思っています。自分のやり方、自分の時間や生活に合わせて、突き進むのみです!世の中には、自分と同じペインを感じ、事業を必要としている人が必ずいるので、ひたすら諦めずに、前に進んでいただければと思います!
諏訪 実奈未さん
2022セミファイナリスト/株式会社Simplee 代表取締役社長
慶應義塾大学総合政策学部2017卒業。ハーバード大学主催の国際会議に日本代表として参画。ケンブリッジ大学のボーディングスクールを経験し、女性向けマーケティング事業・キャンパスラボを展開。外資系コンサル企業に2017年入社。大手金融機関のシステム導入に携わる。一児の母でもあり、妊婦から現在まで保育領域バーニングポイントに複数回触れ、プログラミングを猛勉強。「Simplee 」公式サイト:https://simplee.jp/